LaLaLaFarm(ラララファーム)服部吉弘さん

『発酵』と『循環』をキーワードに次のステージへ

ラララファーム服部さん
インタビュー日:2020年6月25日 聞き手:広報広聴係 大野
 ニセコ町には有機農業や発酵の伝道師として活躍している農家がいます。就農して今年で11年目を迎えるラララファームの服部吉弘さんです。
 服部さんは名古屋出身、大学で土木を勉強し、土木会社に入社。順調に社会人生活を送っていましたが、道路を作る仕事が自然を壊していると感じるようになりました。30歳を目前にして、一度きりの人生、自分が納得できる生き方をするために「自然に沿った循環型農業」をやろうと決意します。
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ニセコ町を選んだ理由

 服部さんは、農業で生きていくために、ネームバリューのある「ニセコ」を選びます。観光が盛んなニセコならホテルやレストランも多く販路があること、札幌からも新千歳空港からも車で2時間程度という立地など、「トータルで考えるとこの町しかイメージできなかった」といいます。スノーボードが好きだという理由も後押ししました。
 早速、インターネットで農業研修を受け入れている農家を調べて、2006年から2年間、ニセコ町で環境保全型の農業に取り組んでいた農家(農業生産法人有限会社ミスニセコの設立者である故吉原京子さん)に住み込みで研修を受けます。
 「2年間無我夢中で取り組んだ」
 厳しい農家でしたが、服部さんが吉原さんの受け入れた最後の研修生となり、最後は「あなたならやっていける」と送り出してくれました。
 その後、余市のトマト農家で2年間の研修を経て、2010年、羊蹄山が目の間に広がるニセコ町で自分の農業をスタートさせます。
 研修期間中、服部さんは資金がない自分がどうやって農業で食べていくか一生懸命考えました。機械に頼らずに小規模でできるもの、毎日食べてもらえるもの、ほかと同じではなく特長が出せるもの……考え抜いた結果、収入のメインにトマトを据えることにしました。また、『奇跡のりんご』の木村秋則さんの本に出会い、「無肥料・無農薬の自然栽培」にターゲットを定めます。
トマト苗
写真:服部吉弘さんFBより

歌うように楽しく農業を~ラララファームの誕生

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写真:服部吉弘さんFBより

 「僕の作った野菜を食べたひとたちが、笑顔になるように。その笑顔を想いながら、僕が楽しく農業ができるように」という思いを込めて、農場の名前をラララファームと名付けました。
 ところが、就農してすぐにショックなことが起こります。資金がない服部さんは、少しでも早く収益を上げるために春になったらすぐに作業ができるよう、秋のうちにハウスを準備していました。ビニールは雪が解けてから張ることにし、骨組みだけであれば雪でつぶれることはないと考えていました。しかし、ニセコの豪雪は骨組みだけのハウスも容赦なくつぶします。
 お金をかけて用意したハウスの骨組みの一部をつぶしてしまい、「恥ずかしいし、ショックで眠れない日々が続きました」
 結局壊れてしまった部分は新品の骨組みを再度購入し、やり直すことからスタートしました。
 服部さんは、1年目はとにかくラララファームの存在を知ってもらうために、ニセコ地域で行われるさまざまなイベントへの出店、ホテルやレストランへの営業、綺羅乃湯や道の駅での販売など、ありとあらゆることに取り組みました。当時道の駅ニセコビュープラザ直売会に新規で入るのはハードルがとても高かったのですが、服部さんは厳しい書類審査や面接をパスし、就農して1年目の7月から出店できることになりました。「最初は道の駅のおかげで販路が確保でき、なんとか食べていけました。1年目から道の駅に出店できることになり、本当にラッキーでした」
 当時崖っぷちに立たされていた服部さんは、がむしゃらに頑張ったこともあり、1年目のトマトがものすごくおいしくできました。道の駅では、値段をほかの農家が出すトマトに比べてかなり高く設定したにも関わらず、多くのお客さんが競って購入していきました。
 地元の人にとっては、「すごい新人が入ってきた」と衝撃デビューだったのです。昔から道の駅に出店していたトマト農家もこっそり服部さんのトマトを購入して食べたとか食べないとか……。
 「地元の農家さんも、僕の育てたトマトの味で僕のことを認めてくれました。当時、1年目からとび抜けることをしないと農家として生きていけないと思っていたので、覚悟を決めていました。胸にはすごく熱い想いを秘めていました」
 きっとこの覚悟が、地元の農家、お客さん、多くの人に伝わったのでしょう。
 
ラララファーム野菜
写真:服部吉弘さんFBより

巡り合った人との縁を大切に

 一人で就農した服部さんですが、スキーやスノーボードの仲間がたくさんボランティアで手伝いにきてくれました。また余市の研修先の縁で就農1年目からトマトジュースの加工ができたことも、ラッキーでした。びっくりするほど甘くておいしいトマトジュースは、服部さんの友人を通じて口コミで広がっていきます。巡り合った人との縁を大切に、ラララファームは着実に販路を拡大していったのです。
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写真:服部吉弘さんFBより

 今は道の駅ニセコビュープラザ直売会のほか、東京や札幌のレストラン、lalala会員などに販売しています。服部さんは「僕がどんな想いをもって野菜に向き合っているか知っている人に自分の野菜を購入してほしい」と考えています。今後は「ネット販売」も広げていく予定ですが、あくまで顔の見える関係を大事にしていきたいと考えています。
 服部さん自身も地区の振興会や農事組合に入って、地区のみなさんと草刈や地域の行事に積極的に参加するようにしています。2年ほど前からは、ニセコ高校が有機農業の授業の時間を設け、地元の高校生に有機農業や自分の想いについて伝えています。

これからのラララファーム

 就農して11年目を迎え、昨年お子さんも生まれました。新しい家族が増え、ラララファームは、次のステージに進む段階を迎えています。今年からはワインブドウの栽培を始めました。
 以前から服部さんは「発酵」に関心があり、冬場に日本酒の醸造会社で働くなど、発酵の勉強を続けてきました。そこで学んだことを自身の野菜づくりに生かすほか、全国で味噌づくりや麹づくりなど「発酵」をテーマにワークショップを開催し多くの人に「発酵」を伝える活動をしています。
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写真:服部吉弘さんFBより

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写真:服部吉弘さんFBより

 「今までずっと取り組んできた『発酵』を今度はワイン醸造で試してみたい」
 ワインは圧倒的に人を惹きつける力があります。味噌や麹をテーマに伝えるよりも多くの人に伝えられます。
 「僕は『発酵』の仕組みを理解することで、野菜の収量が増えおいしくなりました。自分自身が獲得した『発酵』の仕組みについて、ワイン醸造を通して、多くの人にメッセージを伝えたいです」
 ニセコ町は2014年にワイン特区に指定されています。町には、すでにオーガニックワインに取り組んでいた大先輩ニセコワイナリーの本間さんの存在もあります。
「ずっと農家であり続けたいし、醸造もやりたいので、ワインブドウに取り組まない選択肢がありませんでした」
 それから大事な理由がもう一つ。
 「これから子どもが成長していく中で、子どもと一緒に夏にキャンプにいきたいし、学校行事などにもパパとして参加したい!」
 でも今までのような農業のスタイルだと夏は忙しくて時間をつくるのが難しい。
 今年は400本のワインブドウの苗木を植えました。今後は少しずつブドウ栽培も増やして野菜半分、ブドウ半分にしていく予定です。当面はニセコワイナリーに醸造を委託しますが、いずれは小さな醸造所を自分のところで持ちたいと考えています。

これから新規就農を目指している人へ

 服部さんは、新規就農を目指しているという人から、たくさんの相談を受けるそうです。そんなとき服部さんは、まずは「やめたほうがいいよ」と伝えます。
 「農業は天候に左右されるし、丹精込めて育てた野菜は売れるか売れないかもわからない。賞味期限も短い。とても厳しい世界です。僕は年間マイナス200万円が5年間続きました。アルバイトで食いつなぎ、友人に借金もしました。ビジョンがない人は取り組むべきではありません」ときっぱり。
 しかし、「本気で農業をやりたい人にとっては、町に農地を斡旋してくれる組織があるといいと思います」と本気の人には真剣に向き合います。
 いまニセコ町で新規就農をするには、自分で農地を探さないとスタートラインに立つことも難しい状況です。
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写真:服部吉弘さんFBより

将来的に目指していること

 服部さんは、これからは専業農家ではなく、農業も多角化してリスクヘッジする時代だと考えています。
 「将来的にはこの場所に家を建てて、加工所も作って、宿もできるようにして、ファームインのようなことをやりたい。ここで麹や味噌をつくったり、収穫体験をしてピザ窯でピザを焼いたり、みんなが集まれる場所をつくりたい」
 服部さんが育てた野菜を食べたり、体験した人が「おいしい」「楽しい」「また来たい」と思ってくれて、周りにそれが広がって、よい循環につながっていってほしい。
 「みんながそれぞれ自立した個人として、やりたいことをやって、ラララファームで学んだことをそれぞれが持ち帰って、役立ててくれたら嬉しい」

 そんな未来を描いています。
服部さん

このページの情報に関するお問い合わせ先

企画環境課広報広聴係
TEL:0136-44-2121
FAX:0136-44-3500
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